東京大学名誉教授である岩井 克人氏の寄稿です。米経済学者ミルトン・フリードマンの株主資本主義は理論的に完全に誤りであり、会社の目的は株主に尽くすだけではなく多様であることを主張されています。百貨店を例にして株主の会社に対する権利も責任も有限であることを主張されているのは明快です。モノ言う株主の主張を受け入れた結果、株主以外の殆どの利害関係者が不幸になったような事象を私も現場で見てきましたので、この記事は一定の説得力を感じます。
「米国型の株主資本主義が大きな問題を抱えていることはリーマン・ショックであらわになったが、その後も大きくは変わらなかった。しかし、格差や気候の問題が深刻化したことで、資本主義が変質を迫られているのが誰の目にも明らかになった。今のままでは文明は滅びてしまう」
「短期的にはもちろん、長期的にも株主の利益にならなかったとしても、それぞれの目的を追求できるのが本来の株式会社だ。会社は株主の金もうけの道具に過ぎず、会社の資産はすべて株主様のものだというフリードマンの主張は、理論的に完全な誤りだ」
「百貨店の株主だからといって、食品売り場のリンゴを勝手に食べれば窃盗だ。株主は会社資産の所有者ではないからだ。また会社がつぶれても、株式の価値以上の損失は負わない。会社の借金は株主の借金ではないからだ。株主は権利も責任も有限なのだ」
「ソニーグループと東芝の明暗を見てほしい。ともに厳しい経営状態に陥ったが、ソニーは復活を遂げた。事業分割を求める『物言う株主』に対して、自らがめざす価値や『ソニーらしさ』を守り抜いたからだ。対照的に、東芝は理念を忘れ、物言う株主の言いなりになった。配当や自社株買いで資金を流出させ、事業を切り売りさせられた」
「米グーグルは『世界中の情報を整理し、世界中がアクセスできるようにする』という、フリードマンからすれば偽善でしかない社会的理念を掲げている。そして議決権が大きい種類株を創業者に割り当て、物言う株主に物を言わせない仕組みを導入した。だが、それによって従業員の長期的な技術革新を促し、資本主義的にも最も成功した会社の一つになっている」