組織にイノベーションを起こす者は俗に「若者、バカ者、よそ者」が多いといわれています。果たしてそれが本当なのか、稲盛氏の足跡をたどることで探った記事です。面白い内容でしたので皆様にもご紹介させていただきます。
稲盛和夫氏が新しい挑戦で「頭のいい人」や側近を使わなかった納得の理由 | 「超一流」の流儀 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
日本経済新聞でも最近の記事(2023年1月9日)で、「過去の定石が通用しないパラダイムシフトに向けて、世界をどう組み替えるのか。俗に、革新は『若者、バカ者、よそ者』が起こすといわれる。旧弊に縛られず、自由な発想ができるからだ。若い力に経路依存の打開を期待したい」と言及があった。さらに、この三つのフレーズで検索すると、たくさんの記事が出てくる。一方で、組織のイノベーションにおける「よそ者・若者・バカ者」論には限界があると指摘する記事も出てきた。そこで、その指摘をご紹介するとともに、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏が「よそ者・若者・バカ者」を経営でどのように活用してきたのかについても探っていく。
京セラの創業経営者であった稲盛氏は、第二電電の創業というイチかバチかの大勝負をする際、京セラ社内にいた経験豊富なナンバー2は連れて行かなかったことを、ジャーナリストの大西康之氏へのインタビューで明かしている。「新規事業を始めるというのは、城を打って出る時なんですね。その時、城主が自分の城に残り、ナンバーツーに攻めさせたのでは士気は上がりません。城主自らが打って出ないと。城主が打って出る時、ナンバーツーを連れて行くのもダメです。城がガラ空きになる。信頼できるナンバーツーに跡を託し、城主自らが経験の浅い若武者を連れて打って出る。これが正解です。城を託されたナンバーツーは立派な城主に育ちます」(FORESIGHT『稲盛和夫が遺した「自走」する組織作りの真骨頂』22年9月5日)稲盛氏の考えた論としては、こういうことだろう。本気で新規事業を始めるのなら、大将自らが本気でやらなければならない。そこで大事なことは既存の事業をしっかりと守ること。若者を連れていくのであれば、既存事業に大きな影響はないはずだ、と。つまり、若者を連れて行った方が新規事業の成功確率が上がるから連れて行ったわけではなく、結果として若者を連れて行ったということだ。現実主義者の稲盛氏らしい行動であろう。
「当時、こんな体験もしました。これまでやったことのない新製品を開発しようと思ったとき、よい大学を出た賢い部下を集めて話をすると、技術的に非常に難しいので、なかなかやる気になってくれません。新しい開発に挑戦しようと燃えて会社に帰ってきて、皆にも同じように燃えてもらおうと思っているのに、部下たちは燃えないどころか、冷や水をどんどんかけるのです。こういうことが何度もあったので、私は開発を始めるときには、頭のよい冷静な開発者を呼ばないことにしました。それより、『それはおもしろそうですね』と言う、少しおっちょこちょいな人がまわりにいたほうがよいと思うようになりました』(日経ビジネス、22年11月28日)稲盛哲学では「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」ことが必要とされている。徹底的に、厳しい計画を作り上げることも大事だが、まずは深く考えずに、面白そうだ、何とかしようという心構えが必要だと、時には賢い人にはできない振る舞いの必要性を稲盛氏は説いたのだ。
思えば稲盛氏は、通信会社(KDDI)の創業、破綻した航空会社(日本航空〈JAL〉)の再生など、業界の「よそ者」として、大成功を収めてきた人物だ。稲盛氏の成功法則を「よそ者・若者・バカ者」のおかげだと短絡的に述べることも可能なのだろう。しかし、本稿で述べてきたように、稲盛氏が「よそ者・若者・バカ者」だから成功したのではなく、「よそ者・若者・バカ者」のメリットや活用法を熟知していたということなのだ。