表題はサステナビリティを銘打ってますが、内容は会計士業界全体の課題と対策を俯瞰的に触れた内容になっています。特に皆様にお目通し頂きたい箇所を抜粋します。

<INTERVIEW>サステナビリティ時代の会計教育と課題|3593号|2023年02月20日|経営財務DB (zeiken.co.jp)

Q:公認会計士を取り巻く環境変化をどう捉えていますか。

まず、企業を取り巻く環境変化について正しく認識することが大切です。バブル経済の崩壊を契機とした金融構造改革、長引くデフレ、経済の急速なグローバル化、IT技術革新などが、ビジネスや産業構造に大きな変化をもたらしました。インターネットやAIが、新たな可能性を拓き、既存のビジネスに大きな影響を与えているのは好例です。ビジネスが複雑化し、規模も拡大している現状において、膨大なデータを効率的に収集・集計・分析し、それを基にビジネスの在り方を変革するDXも常識になりました。また、最近では、世界の産業政策と金融政策は、持続可能性を追求する方向に転換しました。マルチ・ステークホルダー主義やSDGsが企業経営に浸透するなど、サステナビリティは、いまや最も重要な経営課題です。そして、サステナブル金融へのシフトが、企業情報開示に変革を求め、現在、国際的なサステナビリティ情報開示基準の策定が急速に進んでいます。我々公認会計士は、このような環境変化の影響について各自が考え、変化に適応しなければ、能力が陳腐化し、プロフェッショナル市場において淘汰される懸念すらあります。

Q:監査の面では現状をどのようにお考えでしょうか。

近年、英国やドイツで重大な会計不正が発覚しました。日本においても、上場会社による会計不正は後を絶ちません。中小監査法人に対する行政処分も行われています。このような状況から、国際的な監査規制強化が続いています。我が国では、最近、国際基準の改正を受けて、品質管理基準及び倫理規則の大きな改正がありました。昨年には、公認会計士法が改正され、上場会社監査事務所登録制度が法定化されました。これに関連して、監査法人のガバナンス・コードの改訂が進められており、すべての上場会社監査事務所に受け入れが求められます。これらへの対応に、監査法人はかなりのリソースを費やさなければなりません。一方で、監査対象となる企業数は依然として増え続けており、最近では、サステナビリティ情報の保証の議論も始まっています。このように、公認会計士や監査法人が担う業務が増える反面、監査法人に所属する公認会計士の数はほぼ横ばいです。監査現場は、繁忙を極めているというのが実態だと聞いています。

Q:この問題にどう対処すべきでしょうか。

監査法人には、ICT基盤の整備、高度なデータ分析技術の導入、人材投資など、監査の生産性を上げる努力が一層求められます。DXによって、業務品質の維持・向上と労働時間削減の両立を実現しなければなりません。そして、捻出した時間を人材投資に充て、人の生産性を向上させるという好循環を実現するのです。困難は伴いますが、実現できれば、監査基準の準拠に終始する「コンプライアンス・ファースト」の監査から、次のステップである、「価値提供型監査」を目指すことができます。監査を通じて企業、投資家等に提供できる価値を監査法人の経営者が明確に示し、その実現に向けて組織が一丸となって邁進することを期待します。近年、企業にとっても監査人にとっても、情報開示や監査の負担は高まる一方です。この負担の克服を企業や監査法人の経営努力に委ねるだけでは、早晩限界が来ると思います。資本市場関係者が協力して、資本市場に係る規制の在り方を俯瞰的に点検し、全体最適の観点で見直す時だと思います。この点に関して、第一・第三四半期の法定開示の廃止と監査人によるレビューの任意化に私は賛成です。今後、株主総会の開催日の実質的な分散化、有価証券報告書の定時株主総会前開示、企業側の情報開示に対する規律向上などについても検討が必要だと考えます。

Q:サステナビリティ情報の保証にあたっては、別途、専門家の確保が必要ということでしたが、保証を行う公認会計士にはどういった知識・能力が求められるでしょうか。

現在、国際監査・保証基準審議会(IAASB)で、サステナビリティ情報の保証基準についての議論が行われています。保証の技術的な面は、財務諸表監査で培った能力を活用できると思います。一方で、サステナビリティ情報開示の対象となる領域は、気候変動、生物多様性、人的資本、人権、サイバー・セキュリティなど多岐にわたるため、各領域に精通した専門家をいかに確保するかが重要な課題になります。外部から専門家を採用することに加えて、中長期的な観点で公認会計士を教育することが極めて重要である と思います。