KPMGジャパンがESGに関するレポートを発行しました。BIG4の中でもKPMGはこの分野での情報発信が頭一つ抜けている印象です。
KPMGジャパン、「日本の企業報告に関する調査2022」を発行 – KPMGジャパン
気になった点を徒然なるままに羅列します。
1.報告対象とする事象について、マテリアルだと判断した論拠を明確にし、その背景とともに丁寧に説明する。マテリアリティ分析の結果と戦略の進捗状況を報告する企業が増えていますが、ESG課題が羅列された報告が多く、企業間や異業種間の違いが読み取りにくい印象を受けました。ESG課題は、ビジネスモデルや産業特性によって企業への影響は異なります。また、報告媒体の目的によって、マテリアルだと判断した対象が同じでも報告内容は異なります。取締役会や経営層の共通認識として、経営の意思決定の根幹をなすマテリアリティをどう認識しているのかを、情報利用者へ適切に伝えるためには、マテリアルだと判断した論拠を提示するとともに、その判断プロセスを含めた丁寧な説明が望まれます。
2.価値創造を支える仕組みとしてのコーポレートガバナンスを伝える。企業価値創造の源泉と価値の毀損要因を分析し、その内容に基づいて策定した戦略を遂行する際、取締役会は包括的かつ長期的な視点で組織の方向性を定め、時には軌道修正しながら、持続的な経営を支える役割が期待されます。報告書には、マテリアルだと認識した課題に十分な知見をもつ取締役を選任しているかどうかや、目標達成のためのインセンティブとなる報酬体系があるかどうかなど、マテリアリティに関し取締役会が十分認識を共有している実態や策定した戦略への責任を示す必要があります。コーポレートガバナンス改革に伴い、報告書に含まれる情報量は増加していますが、制度が求める最低限の情報ではなく、価値創造ストーリーに関連づけた説明を通じてインサイトを提供することが求められています。
3.制度対応のための開示から脱却し、企業価値に関するインサイトを伝える報告を目指す。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、IFRSサステナビリティ開示基準の開発を進めており、世界各国の企業報告制度がその開示要求を組み入れる動きもみられます。日本でも、2023年3月期の有価証券報告書から、サステナビリティ情報の開示が必須となりました。企業の取組みについて適切な評価を得るためには、開示指標の意味合いを補足する背景情報や現状分析に基づく今後の見通しを伴った説明に加え、企業独自の指標を用いて目指す姿を伝えることが大切です。企業には制度対応を目的とする取組みから脱却し、企業価値とその持続性を高める行動の一環として、独自のインサイトを提供し、ステークホルダーと主体的に対話していく姿勢が問われてくるでしょう。