PBR1倍割れ脱却の鍵として知財の開示を提案しています。資本政策だけではなく知財投資をすることこそがイノベーションにつながると論じています。ただし企業は知財投資を5-10年のスパンで考えている一方で、投資家はそんなに長い間待ってくれません。そのギャップを埋めるにはどうすればよいか?一橋大学加賀谷教授による提言です。

伊藤レポートの次は「知財の開示」 投資家理解への条件 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

――具体的にどうすれば、企業と投資家の視点の違いを乗り越えられますか。

「時間軸のギャップを克服するため、23年3月に公表した『知財・無形資産ガバナンスガイドライン』の第2版で開示に役立つ3つの要素を盛り込みました。それらは、(1)差別化の源泉となるビジネスモデルを示す『ストーリー』、(2)知財投資が企業収益に結びつく経路を示す『因果関係』、(3)投下資本利益率(ROIC)など経営指標と知財投資を結びつける『KPI』(重要業績評価指標)です」「KPIという数値にまで知財投資の効果を落とし込んでいくと、取締役も目標に応じて進捗をフォローできます。こうして取締役がガバナンスを効かせつつ、情報開示を進め、さらに株主とのエンゲージメントで得たフィードバックを経営に生かす――という好循環を期待したいです」

――加賀谷さんから見て、よい開示を行っている企業はどこですか。

「ROIC経営を徹底するオムロンは先進事例の1つです。同社は『ROIC逆ツリー』と呼ばれる分析の枠組みで、知財や無形資産の投資がROICなどと結びつく様子を説明しています」「特筆すべきは、開示のための開示に終始しないよう、根気よく現場に定着させている点です。ROIC経営もバージョンアップさせるなど、自らの努力で進化させています。知財の開示でカギを握るKPIを、現場の活動として理解できる指標に分解し、根付かせることができていると思います」

一方で本日の日経でPBR重視に警鐘を鳴らす記事を掲載しております。

PBRは万能の物差しなのか – 日本経済新聞 (nikkei.com)

PBR(株価純資産倍率)という指標が脚光を浴びている。これが1倍を割れている企業は、時価総額が解散価値を下回っているから存在価値がないといわれる。本当だろうか。わが国を代表するトヨタ自動車が、かろうじて1.1倍である。以下、ホンダとマツダが0.6倍前後、日産自動車は0.4倍台と続く。察するに株式市場は、わが国の自動車産業は電気自動車(EV)化に遅れていて、いずれ内燃機関に関する多数の子会社を抱えたまま没落する、と読んでいるのであろう。しかしそれは正当な見方なのか。トヨタやホンダが正しく、株式市場が間違っていることだって十分にあり得よう。今年になって急上昇した商社株は、今はほとんどがPBR1倍を超えているが、少し前までは大きく下回っていた。なぜ株価が上がったかと言えば、ウォーレン・バフェット氏の買い増しのおかげである。経営の中身が特段に変化したわけではない。要するに「株式市場は企業の通信簿」とはいえ、絶対的に正しいわけではない。ときと場合により、評価は変動し得ると受け止めるべきだ産業別にみた場合、PBRが低い業種に銀行業がある。もちろん超低金利という逆風が続いているからで、市場地位の低下が続くのも無理からぬところだろう。そんな中で、他業種と同様に「PBR1倍」という目標を与えるのは、果たして合理的なのか。他の先進国でも総じて銀行業のPBRは低めだという。しかもかつて高PBRを誇った米中堅銀行のうち、シリコンバレーバンクなどが経営破綻に至っている。彼らは取るべきでないリスクを取っていたことになる。低PBR銘柄と言えば、電力株も該当する。しかるにこの業界は、総資産のうちかなりの部分を占めるはずの原子力発電所が、国策として稼働を止められている。もちろん原発再稼働の可否は、個々の事例に応じて原子力規制委員会の判断を待つしかない。とはいえ、それで投資家から「御社のPBRは低過ぎる」と責められるのではあまりにも不条理ではあるまいか。「PBR1倍以上」という単一の尺度で、全産業に横串を刺すことは果たして適切なのか。むしろ、日本経済をゆがめてしまうように思われて仕方がない。