PwCドイツがCSRDの本場から生の情報を発信しています。現場でしか把握できない情報を発信していただいているので大変参考になります。一部内容を抜粋します。

経理財務のためのサステナビリティ情報開示最前線~CSRDの本場欧州ドイツから 第3回 ドイツでのサステナビリティ開示・保証と日系企業の状況|3646号|2024年03月18日|経営財務DB (zeiken.co.jp)

・72%の企業がサステナビリティを重要な戦略と認識している。2021年には24%だったことから重要性が増している。しかし26%の企業はまだサステナビリティ戦略を設定していない。
・サステナビリティ情報の開示が重要な理由は、顧客の要求(70%)、規制対応(55%)、マーケティング(53%)並びに投資家対応(48%)、銀行(45%)、その他のステークホルダー(40%)、従業員向け(35%)。
・調査対象企業の55%が現在すでに任意で非財務情報報告を行っている。その中の35%が任意で保証を受けている。保証を受けている場合、自社の監査人が保証業務を請け負っている場合が35%、その他の監査法人に依頼をしているケースが13%であった。
CSRD対応のハードルとして、複雑性とリソース不足が64%、時間不足が50%、専門知識の要求度と組織内の担当決めの難しさが49%となっている。それに対してマネジメントからのサポートの欠如は14%しか挙がっていない。またバリューチェーン全体で対応しなければならないことについても74%がハードルとして挙げている。
・非財務情報への対応は、42%がサステナビリティ推進部が担当している。30%の企業では経理部が担当している。この2部門が共同で進めていくケースが増えてきている。他にはドイツ特有ではあるがコントローリング部門(管理会計を担当)や広報部門が担当することも多い。
・CSRDのKPIを設定した企業が61%、スコープ分析は54%が、マテリアリティ評価を実施した企業は54%であった。それに対し15%の企業がまだCSRD対応を開始していないと回答した。
・過半数を超える企業が、CSRD報告でITツールを使用すると回答している。その中でExcelと回答した企業が27%で一番多かった。CSRD用に開発されたERPシステムを使用するという回答は19%であった。
・58%の企業が外部コンサルを使用し、29%の企業は自社のリソースのみで対応すると回答している。
・CSRDの要件が今後の企業の戦略決定に影響を与えると考える企業が59%であった。

ESRS E1「気候変動」から特定されたマテリアルなトピックは、他の環境に関する基準のトピックよりも多く特定されている。GHG排出量に深く関連している気候変動への適応や緩和は世界的に注目されているサステナビリティ事項であり、ISSB(International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会)が真っ先に気候関連開示事項に関する基準「IFRS第S2号」を開発していることからも、気候変動に関するトピックはステークホルダーからの注目度も高い。そのため、CSRDに準拠したマテリアリティ評価で他の環境トピックよりも多くのマテリアルな事項が特定されることには違和感がないであろう。
特定するマテリアルなトピックの数は、業界ごとに一般的に「小売業 > 製造業 > ソフトウェア > 人材派遣」といった特徴が見受けられる。これは、検討するマテリアリティ評価で特定するマテリアルな項目数は、自社およびバリューチェーンに含まれるオペレーションや製品・サービスの種類の多寡と相関関係があるためである。自社で多くの製品やサービスを取り扱っており、幅広いバリューチェーンに依存してビジネスを展開している会社は、より多くのマテリアルなトピックを識別する傾向がある。
一部の開示要件は地域や資産レベルでの開示を要求しているが、この粒度ではマテリアリティ評価が行われていないケースがある。外部アドバイザーの支援を受けてCSRD対応の準備をしている会社は、適切な粒度でマテリアリティ評価を進めていると考えられるが、自社で対応をしている企業に関しては、各開示要求事項に対するマテリアリティ評価を、どういった粒度で実施する必要があるのを十分に把握したうえで実施する必要があるだろう。そうしなければ、実際の開示段階で収集粒度の間違いに気づき、大きな手戻りが発生する可能性が高い。
ギャップ分析では、どの日系企業も事前の想定以上にギャップが識別されていることが特徴である。PwCが支援しているサステナビリティ報告のリーディングカンパニーでは、ESRSに準拠した報告に必要な全データの30%程度しか保有していなかった。これはギャップ部分である70%をフェーズ2で対応する必要があることを意味する。多くの日系企業では、特定したギャップの割合はこれよりも大きい場合が多く、フェーズ2は想定していた工数よりも大幅に増加することとなっている。