各社CXOの方々とESGについて意見交換する際によくある話。

「ESG活動を通じて積極的に社会課題解決することは社会にとって良いことなのはわかってる。でもESG活動でコストをかけて業績を悪化させたら株主から突き上げをくらい株価も下がる。だから、どの程度ESGに時間を使えばいいのか手探りのまま対応している。」

事実、ISSB議長のEmmanuel Faber氏の前職はダノンCEOでしたが、ダノンCEO時代にサステナビリティに傾注しすぎたことが一因で株主総会にてCEO解任されました。

ISSBの初代議長は元ダノンCEO | 一般社団法人スチュワードシップ研究会 (stewardship.or.jp)

こうした悩みを解決する方策として「ESG活動の成果はどこまで企業価値を高めるのか?」を数値で示すことで投資家の理解を得る動きが進んでいます。1例として元エーザイCFOの柳氏が提唱したモデル(柳モデル)を使った実例をご覧ください。

「いくつかの有力企業は柳モデルを採択して、自社のESG経営と企業価値の関係性を開示している。

KDDIは、2021年5月14日の2021年3月期決算発表説明会資料で高橋誠社長が、「KDDIのESGと企業価値の関係性実証(信頼区間95%における平均値試算)」として、KDDIでは、「温室効果ガス排出原単位を1割減らすと6年後のPBRが2.4%向上する」正の相関があることを説明している。

NECは、2021年12月10日のESG説明会資料で、「部長級以上の女性管理職を1%増やすと7年後のPBRが3.3%向上する」「従業員一人当たりの研修日数を1%増やすと5年後のPBRが7.24%向上する」ことを開示している。

日清食品ホールディングスは、2022年2月2日公開の価値創造レポートで、「定量面の検証では、非財務資本と企業価値(PBR)の関係性を明らかにする分析モデル(柳モデル)を利用し、創業者精神に基づくESGの取り組みと企業価値の間に正の相関関係があることが明らかになりました。今回分析に用いた約270項目に及ぶ非財務データのうち多数の項目が企業価値と関係することが判明しています。例えば、研究開発費1%増加時に7年後のPBRが+1.4%CO2排出量1%減少時に8年後のPBRが+1.0%などの関係性が出ています」と記述している。

JR東日本は、2022年8月4日発行のJR東日本グループレポートに、「非財務とPBRの関係性を明らかにする分析モデル(柳モデル)により、各重点課題における取組みが企業価値にどの程度影響を与えるかを、ROEを調整変数に加えて分析しました。この分析の結果として下記の相関関係が検出されています。鉄道事業のCO2排出量を1%減らすと、3年後のPBRが1.06%向上する従業員1人当たりの年間平均研修時間を1%増やすと、同年のPBRが0.54%向上する」という趣旨を記載している。」

「柳モデル」は日本企業全体へも適用可能か | 進化する組織 | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)

「これはウチにはあてはまらない」とか「ここまでやる必要あるのか…?」とか色々な意見あると思います。しかし、ESGと企業価値を数値でつなげる試みは画期的でたいへん社会にとって有益な試みだと思いました。皆様はいかがお考えでしょうか?