複数社兼務している社外取締役は社会から期待されている役割を果たせていないのでは?という論点を取り上げた記事です。日本ではガバナンスコード等の影響により、社外役員のニーズが急速に高まりました。しかし、社外役員を担える人材数は限られており、需要が供給を大きく上回っているのが実態です。本件は兼務数の多寡だけでは判断できない論点ですが、「社外役員が社会から期待されている役割は何か?」という視点をしっかり保持したうえで、過剰兼務問題という切り口で本件を議論するのは有用と思いました。

日本経済新聞(2023/01/09 朝刊)より抜粋

社外取締役、兼務可能は何社: 日本経済新聞 (nikkei.com)

「複数の企業の取締役を兼務する人は各社の職務に十分な時間を充てられるのか。米シリコンバレーの大手投資ファンドの幹部は昨年、投資家のこの疑念がいかに強いかを思い知った。米シルバーレイクの共同最高経営責任者(CEO)イーゴン・ダーバン氏は取締役を務めていた米ツイッターが2022年5月に開いた株主総会で、余りにも多くの企業の取締役に就いているとして再任を否決された。この一件は、取締役の過剰兼務が企業にとって大きな問題になっていることを物語る。だが何社なら多過ぎるかは一概にはいえない。」

「議決権行使助言会社の米ISSは米企業の株主に対し、5社超の公開企業の取締役を兼務する人や、自社以外に2社超の公開企業で取締役を兼ねる公開企業のCEOの選任に関し、おおむね反対または保留するよう勧めている。英企業の株主には、担う職務を数値化し制限を設けることを推奨する。社外取締役は1社あたり1点、取締役会議長を務める社外取締役は2点、社内取締役は3点で、合計5点が上限だ。」

「小型機が2度も墜落事故を起こした米ボーイングや、虚偽の説明で投資家を欺いた米バイオベンチャーのセラノスなどの不祥事は、取締役会の機能不全が大惨事を招きかねないことを示した。あるコンサルタントは「取締役という役職に対する社会的信用は以前より低下していると思われるが、期待と要求は逆に強まっている」と話す。」

「では、どうすればいいのか。理想をいえば数字による線引きではなく、職務に関する話し合いがもっと持たれるべきだ。取締役会などへの出席チェックや取締役の増員も足がかりになる。冒頭のダーバン氏は株主総会後も取締役として残ったが、ツイッターを買収した米起業家イーロン・マスク氏がその後、他の取締役とともに解任した。しかしダーバン氏が手持ち無沙汰になることはない。シルバーレイクのサイトには同氏が今も社外取締役を務める10社の社名が並んでいる。」