ESG活動が企業価値に与える影響をどう測定するか?起業家にとっても投資家にとっても非常に悩ましいテーマです。例えば元エーザイの柳氏はESG活動とPBRとのつながりを過去の事実を使って検証しました。
ESG活動の成果はどこまで企業価値を高めるのか? – 元エーザイCFO 柳氏の考察 – CFOニュースPlus (cfonewsplus.com)
今回は日立製作所と京都大学砂川教授のコラボでESG活動とROICとのつながりを検証しています。
日立、環境・人材で収益性向上 | 日経ESG (nikkeibp.co.jp)
日立が社会や環境といった非財務の取り組みと財務の関係性を明らかにしようと試み始めたのは2017年のこと。当時は事業とSDGs(持続可能な開発目標)の関係を明らかにしようと、169のターゲットとのひも付けを実施した。その後、19年に発表した「2021中期経営計画」では「社会価値・環境価値・経済価値を重視した経営」を打ち出し、事業内容と事業が創出する社会・環境価値について因果関係を調べた。次に浮上したのが、社会価値・環境価値が財務とどう結びついているのかという疑問だった。検証方法を模索していたところ、出会ったのが砂川研究室である。砂川教授らはESGの取り組みと企業財務との関係性について、日本企業を対象に研究を進めていた。21年7月から、両者での共同研究を開始した。
ESGと財務の関係性には2つのケースが考えられる(下の図)。1つは、財務に対してマイナスの影響を与え、財務的な企業価値や株主価値を損なうケースだ。経営者が多様なステークホルダーを過度に重視したり、過度な時間や資金を投じたりすることで引き起こされる。もう1つはESG活動の強化によってプラスの影響が生じるケースだ。従業員の士気、顧客やサプライヤーの評判が向上し、資源の有効利用などによって生産性が改善する。
ESGの取り組みが財務的な価値に与える影響について関係性を調べた。プラスとマイナス、両方の影響を与える可能性がある(出所:京都大学経営管理大学院砂川研究室)日本企業の状況はどちらなのか。砂川研究室では日本企業の環境への取り組みと投下資本利益率(ROIC)の関係を分析した。13~20年の旧東証1部上場企業のうち、CO₂排出量、水使用量、廃棄物総量に関するデータをブルームバーグのデータベースから取得できた企業を対象とした。CO₂排出量を削減すると、その年度と翌年度のROICが数ポイント高くなり、環境対策とROICには相関関係があることが分かった。
ESG経営の効果を考えるには、比較対象としてESG経営をしなかった場合のデータが必要になる。そこで、17年時点での日立と企業規模、事業内容、資本構成、財務状況が似ている企業約10社のデータを利用し、ESG経営を進めなかった場合の20年時点の「仮想の日立(ブラウン日立)」を設定して、実際の20年時点の日立(グリーン日立)と比較した(下の図)。その結果、環境面や人材面のデータとROICの間に有意な相関を確認でき、ESG経営はROICについて改善効果があったと判断した。
目下の課題は、人材関連の施策と財務との関係性の分析だ。砂川研究室では企業風土や従業員の意識を介し財務に与える影響も調べている(下の図)。同様の関係を日立で確認できるのか、検証を進めている。従業員エンゲージメントや離職率、メンタル休業率、労働生産性など様々なデータの活用を検討している。
「非財務と財務の関係性が明らかになれば、どこに施策を打つとどういう波及効果があるのか、どんな財務インパクトがあるか分かるようになる」(増田氏)。同社の21年度のROICは7.7%。24年度の経営目標として10%を掲げている。ESGとROICに相関があると分かった今、ESGに関する施策の重要度は増している。ESG経営を進化させるためには、ESGが財務的な企業価値につながっているかの検証が欠かせない。ESG経営は、定量的な数値で効果を示すフェーズに入っている。
財務と非財務のつながりが明らかになればESG活動に関する投資家の納得感は高まり、ESG推進は大きく一歩前進すると思います。2023年3月期から人的資本について指標と目標の開示が求められますが、究極的には上記の人材と財務成果の関係系が明確になれば、各社の設定する指標と目標の説得力が増すと考えます。