なぜ同じような時間働いているのに、生き生きと働く人もいれば鬱になってしまう人がいるのか、そのような事象を医者が分析した記事です。第2領域の活動を強い意志をもって取り組むことの大切さを説いています。第二領域の活動に没頭することを「フロー状態」ともいうのだそうです。
「やらされ感」を科学する | 日経ESG (nikkeibp.co.jp)
『7つの習慣』を著したスティーブン・コヴィー氏は、日々どんな行為に時間を使っているかを見る方法として、重要性と緊急性を二軸とした図を紹介しています(下の図)。
第1領域は、重要かつ緊急性の高い物事です。例えば、締め切りが近い仕事やクレーム対応などです。第2領域は、重要だが緊急ではない物事。勉強や豊かな人間関係の構築、健康づくりなどです。第3領域は、緊急(日時が決まっているなどの意味を含む)だが重要ではない物事が該当します。惰性で続く定例会議や、意味の薄い接待会食などです。第4領域は、緊急でも重要でもない物事で、例えば何となくテレビやスマートフォン(スマホ)を眺める行為などが入ります。
丸井グループを含む数社の管理職を対象にしたワークショップで、自分が日頃どの領域にどのくらい時間を使っているか割合を書いてもらいました。多くの人は第1・第3領域に振り回されて毎日を過ごしており、第2領域に使う時間はほとんどありません。締め切りに追われて資料を作り(第1領域)、会議に次ぐ会議(第3領域)。ヘトヘトになって帰宅し、ビールを飲みながら動画サイトを眺める(第4領域)のが唯一の楽しみといった具合です。この第4領域だけが本来の自分に戻れる、全身が何とか調和した時間なのです。
私が産業医をしていたある会社で経験した事例をお話しします。提携先の企業に籍を置くことになった課長職の方のケースです。朝は神奈川県の自宅から地方にある提携企業に新幹線で出勤します。出先で仕事をし、夕方に神奈川県にある自社に帰社。それからメールの処理や幹部への答申資料を作成して深夜に帰宅する生活です。楽しみだった晩酌の時間も削り、軽く食べて寝るだけの日々。休日も疲れ果て、好きだった釣りにも行かなくなりました。ある日、産業医である私の部屋に駆け込んできて、口を開いたものの言葉が出ず、涙だけが溢れました。もう何がどうなっているか分からない状態で、即刻ドクターストップで仕事を休んでいただきました(療養後は働き方を変えて復職しました)。今まで何とか全身を調和させていた第4領域を失くし、最低限の調和すら保てなくなったのです。
本連載でも紹介した「フロー状態」を提唱した世界的な心理学者チクセントミハイ氏は、雑談をして冗談を言ったり、ぶらぶら歩いたりといった、緊急でも重要でもない第4領域の行為を「はく奪」すると人はどうなるか。48時間経過を観察する実験を米国で行いました。チクセントミハイ氏はこうした行為を、わずかな調和を得られることから「マイクロフロー」と呼んでいます。これを奪われた被検者の多くが疲弊し、イライラして怒りっぽくなり、生産性や創造性が低下しました。一部の人は、めまいや頭痛、思考停止、前述の事例のような錯乱に近い状態になりました。しかし、これほど悪影響が続出する状況にもかかわらず、2割の人はこの実験にプラスの評価をしたのです。この驚くべき少数派は、どんな人だったと思いますか。それは、やらされ感ではなく、フロー状態で仕事をしていた人でした。仕事の中に喜びや充実感があるので、「この実験のおかげでダラダラした時間が減って集中できた」と好意的なコメントを述べたそうです。フロー状態は、全身の器官が機能的に調和しているから力が湧き、深いレベルの喜びの感覚があり、最高のパフォーマンスと学びを得られるのだろうと思います。フロー状態は主体的な活動の時に起こるので、第2領域の中で生じやすいと言えます。ただし、それには仕事にせよスポーツにせよ、一定程度の水準に熟達するまで能力をつける必要があります。テレビやスマホを眺める行為は熟達を必要とせず、ラクにできます。だから多くの人は、第4領域が好きなのです。第2領域に取り組むには、意志の力を要します。中長期的な優先度を考え、自分の意識を統制して時間などのリソースを割り当てる必要があるのです。「意識の統制を身につけない青年は、訓練なしに世に出るようなものである」とチクセントミハイ氏は言います。さらに、「成人でも自己統制ができない者は、変化についていけなくなる」とも。コヴィー氏は、この第2領域に集中して時間を割くべきだと述べています。なぜなら勉強や健康づくり、豊かな人間関係を育む活動は、私たちの生活の質、仕事の効果性、ひいては長期的な人生の豊かさに影響するからです。
ではフローとはどういう状態なのでしょうか?
活動の原点となった「フロー理論」(2ページ目) | 日経ESG (nikkeibp.co.jp)
人間はフロー状態に入ると雑念に囚われることなく集中し、その人の最大限の力が引き出されます。そのため、フローは別名「最適経験」とも呼ばれます。スポーツの世界では「ゾーンに入る」、武道の世界では「無の境地」と表現されることもあります。目の前の課題に没頭することは自己成長を促し、その行為を心の底から楽しむことにつながります。時間感覚のゆがみ、つまり何かに熱中してあっという間に時間が過ぎたような感覚になるのもフロー状態の特徴です。研究によって、フロー状態を導く条件も分かっています。目標が明確である、難易度が適切である、フィードバックがこまめに得られる(※2)、取り組む課題に価値を感じている─などです(下の図)。フロー状態に入る条件が分かっているということは、これを活用することでフローを導きやすい仕事をデザインできるということです。
出所:『フロー体験 喜びの現象学』(M.チクセントミハイ著、世界思想社)
チクセントミハイ教授は次のように言っています。「幸福は自分たちで起こす何かであり、ベストを尽くした結果起こるものである。潜在能力を実現するときに満たされる感情がモチベーションとなって差異化を起こし、進化へと導く」