名著「失敗の本質」の著者である野中教授の寄稿です。「失われた30年はなぜ生まれたのか?」、この問いに対して「アニマルスピリッツが欠けたから。」という回答をされています。

〈直言〉「企業の失敗、野性喪失から」 野中郁次郎氏 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

――企業にとって「失われた30年」の真因はどこにあったのか。「雇用や設備、債務もその通りだ。しかしより本質をいうならプラン(計画)、アナリシス(分析)、コンプライアンス(法令順守)の3つがオーバーだった」「数値目標の重視も行きすぎると経営の活力を損なう。例えば多くの企業がPDCAを大切にしているというが、社会学者の佐藤郁哉氏は最近、『PdCa』になったといっている。Pの計画とCの評価ばかり偏重され、dの実行とaの改善に手が回らないということ。同感だ」「行動が軽視され、本質をつかんでやりぬく『野性味』がそがれてしまった。野性味とは我々が生まれながらに持つ身体知だ。計画や評価が過剰になると劣化する」

――計画や数値目標なしに経営は成り立たないのでは。「それらは現状維持の経営には役立つかもしれないが、改革はできない。欧米の科学的管理手法から発展したやり方は、感情などの人間的要素を排除しがちだ。計画や手順を優先させられると人は指示待ちになり、創意工夫をしなくなる」「計画や手順が完璧であることが前提だけに、環境の変化や想定外の事態に直面すると、思考も停止する。高度成長期には躍動の原動力だったとしても、今では成長を阻害する要因だ」

――では、成功の本質とはどんなものか。「過去の組織、戦略、構造、文化を変える。そして我々はなぜここにいるかを確信できる価値と意味を問い直す。モノマネでは元も子もない。だから私は『考える前に感じろ』と訴えている」「ソニーグループを再生した平井一夫氏(前会長)が、改革には『IQ(知性)よりEQ(感性)だ』と話していたのが興味深い。『感動』というパーパスで自信を失いかけた社員のマインドセットを変えたのだが、重視したのは共感だった。6年で70回以上もタウンホールミーティングをしつこくやったという」

――感性だけで経営できるのか。「そこで重要になるのが、個人に眠る暗黙知を集団で共有するプロセスだ。さらに徹底した対話を経て、暗黙知を言葉や論理による形式知に変換する。最終的には集団で獲得した知の実践を通じ、個人の暗黙知をもう一段高める。こうした流れを私は英語の頭文字をとって『SECI(セキ)モデル』と定式化した」「このモデルは計画や数値ではなく、現実を生で感じて全身全霊で共感し、暗黙知を獲得するところから始まる。そして『知的コンバット(戦闘)』も欠かせない」「ホンダは経営や商品開発について現場の社員が徹底的に討論する『ワイガヤ』を重んじてきた。これは対話を通じて集合的に本質を直観する場だ。お互いの理解を超えて関係性をつくるのはしんどいし、つらいプロセスだ。でも逃げずにやりきれば、新しい地平に至ることができる」

失敗の本質に関する過去の記事も紹介させていただきます。

書評:失敗の本質 日本軍の組織論的研究 – ダイヤモンド社 – CFOニュースPlus (cfonewsplus.com)