SECが2024年3月中に公表するGHG開示規則は、11月の米国大統領選挙でトランプが勝利すれば即座にトランプはこの規則を廃止するだろう、という記事です。先日Scope3開示を規則案から外したばかりですが、それでも折り合いがつかないのですね…。廃止にならなければ当該開示規則は2026年から施行されると見込まれています。
20240301_024276.pdf (dir.co.jp)
SEC の GHG 開示規則は、米国市場に上場している企業を対象としている。2022年の案では開示内容として、
◎GHG排出量: SCOPE 1、2、3
◎気候変動に関連するリスク、影響、目標、ゴールなど
◎移行計画の策定・管理
◎気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に準拠した正確性や網羅性のある報告
などを求めていた。
SEC が近々公表する見通しのGHG開示規則では、SCOPE 3について義務的な開示事項とはしないようだ。産業界からは、特にSCOPE 3の算出方法が明確でなく、データ収集等に大きなコストがかかる恐れがある上、その不明確さゆえに法的なリスクになりかねないとの懸念が示されてきた。また、このような数値が果たして真に投資家等によって利用されるものであるかも疑問とされてきた。GHG開示規則検討の最終段階でSCOPE 3の開示義務が削除されたのは、このような批判を受け入れた結果であろうと思われる。
以上のようにGHG開示規則については、賛否が渦巻いている。規則が確定したとしても、産業界や共和党からは、これを無効化しようとする動きが生まれるだろう。規則の無効化は、様々な方法で争われることがある。最近でも、米国労働省が策定した企業年金基金における ESG 要因の考慮の可否に関する規則では、民主党から造反者が出たこともあって、上下両院で規則の無効化を決議した。もっとも、この決議には、バイデン大統領が拒否権を行使したため、今も規則は有効だ。また、SECによる自社株買い開示規則に対しては、全米商工会議所等が無効化を訴えた訴訟で勝訴し、無効化が確定している。GHG 開示規則でもこのような方法が用いられる可能性はあるが、規則の実施が2026年からと見込まれているので、今すぐに行動を起こす必要はないかもしれない。2024年11月の選挙で、トランプ前大統領が勝利し、共和党が多数党となれば、全てを覆すことができるからだ。共和党は、GHG開示規則の策定に反対の立場であるから、トランプ前大統領が勝てば、直ちにGHG開示規則の無効化を求める大統領令を発すると思われる。国際的にはISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が「気候関連開示(IFRS S2)」 に関する規則を公表している。GHGの排出量、削減対策、シナリオ分析などについて詳細な開示を定めた規定だ。しかし、これには強制力がなく、各国の規則当局に採否は委ねられている。トランプ前大統領が勝利した場合、これを国内規則化することはないだろう。また、EU の「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」も、GHGに関する開示規定を定めており、域外適用の規定によって、少なからぬ米国企業が影響を受けると言われている。米国内の開示規制では求められることのない、広範で複雑な開示負担が多くの米国企業に生じることとなるが、第二次トランプ政権が誕生するとなれば、この域外適用を問題化させるだろう。