2021年度(2021年4月期から2022年3月期)に係る被監査会社等の監査実施状況が日本公認会計士協会からリリースされました。こちらの情報を利用して監査報酬交渉に臨まれている方々もいらっしゃると思いますので、毎年注視されている情報と思います。なお「例年よりリリースが遅いな…」、と思っていたのですが、昨年末日本経済新聞でも掲載された公認会計士資格の誤表記問題が影響を与えているようにも読めました。

監査実施状況調査(2021年度) | 日本公認会計士協会 (jicpa.or.jp)

なお、2022 年 12 月 26 日に公表した会長声明「公認会計士資格の適切な表記と集計の要請について」、参考資料「公認会計士資格の誤表記に係る日本公認会計士協会の対応」のとおり、監査概要書等に誤表記が多数発生したことを受け、2023 年 1 月末日までに再提出のあったものを含めて集計した。

総監査報酬という切り口で見ると、ここ5年は監査報酬は毎年3-8%で増加しており、増加の内訳は単価の上昇ではなく監査時間の上昇でカバーしています。

しかし、この5年で監査対象となる会社数も増えています。そこで平均監査報酬で見た場合、ここ5年の平均監査報酬は毎年1-2%の上げ幅で推移していることがわかります。その結果、平均単価及び平均監査報酬もこの5年でほぼ横ばであることが見て取れます。特に平均単価は10年以上ほとんど変わっていません。監査の厳格化及びインフレの影響により、グローバルな視点で業界を見ると監査時間並びに単価は上昇しているはずなのにトレンドと整合していません。なぜこういうことが起こるのでしょうか?

私見ですが、下記が主な原因ではないかと思います。

大手監査法人の監査時間及び平均単価は上昇→大手の監査工数と平均単価の上昇に耐えきれない会社が監査人を大手から中小に変更→中小監査事務所の平均監査時間及び平均単価は大手より低い→その結果、ここ5年の業界平均監査時間/業界平均単価が変わらない。

いま中小監査事務所による上場会社向け監査の品質問題が会計士業界のトップアジェンダになっています。この問題を解決するために中小監査事務所が対応すべきこととして①優秀な監査人材を増やす(≒平均単価を上げる)②十分な監査工数を確保する(≒監査時間を増やす)の2点があげられると思います。現在、金融庁が中小監査事務所への行政処分を増やしている流れの中で上記①②の動きが起こるのは避けられないと思います。したがって、これから5年で業界の平均単価及び平均監査時間は上昇傾向になるのではないかと感じています。

「公認会計士協会は大手監査法人、中規模監査法人、小規模監査法人と分けて上記表を開示すればよいのに…」と思います。色々と議論が起こりそうな情報ですが、中小監査事務所の監査品質問題に向き合うには透明性をもった議論が必要と思います。

下記時間内訳は第1及び第3四半期が廃止になったら16.2%監査報酬を減らせるという考え方もできます。期末監査の前倒し手続を除いたとしても相応の額の監査報酬が減ることは間違いないと感じています。

一方で非財務情報への監査人による保証という話もクローズアップされています。財務情報から非財務情報へ社会のニーズが変化しているなか、我々会計士も変革していく必要を強く感じます。会計士業界にとって、この動きは連結ビックバン、JSOX&四半期導入、IFRS導入を超えるインパクトがあると考えています。変化はチャンスですので、この5年は非常に面白い時代になります。ぜひ社会のニーズに応えられるよう私も会計士の端くれとして成長していきたいと思います。