東芝不正会計問題を引き合いに会計監査の厳格化が進んでいることに触れた内容です。本筋からは外れますが、パソコン事業の利益かさ上げ(いわゆるバイセル取引)が法令違反にならなかった根拠は詳細を知りたいところです。

[社説]会計監査の改革さらに前へ – 日本経済新聞 (nikkei.com)

2015年に発覚した東芝の不正会計問題を巡り、同社と株主が旧経営陣に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁が田中久雄元社長ら5人に計約3億円の賠償を命じた。現在に至る経営混乱の発端となった不正会計について、司法判断が示された意義は大きい。判決を会計・監査の改革をさらに進める契機にもしたい。判決はインフラ工事での引当金の過少計上などを、米国会計基準に照らして違法と判断した。5人について「違法な処理を認識できたのに是正する義務を怠った」と結論づけた。一方で、パソコン事業の利益のかさ上げなどは会計基準違反に当たらないと指摘。損害賠償を求められた15人のうち10人には賠償を命じなかった。責任を限定的に捉えた面はうかがわれるものの、全体として経営者の注意義務の重みを再認識させる内容と言える。

東芝粉飾決算「利益水増し」なぜできたのか:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

東芝はパソコンの組み立てを、台湾などの組み立てメーカーに委託していました。こうしたメーカーはODM(受託製造業者)と呼ばれます。受託製造業者は東芝と比べて、経営規模が見劣りします。そこでパソコン事業では液晶や半導体などの部品を東芝が安く調達し、受託製造業者に再販していました。東芝は安く部品を調達する一方で、その原価を隠すため通常より高い値段で受託製造業者に売っていました。この差額を「マスキング」と呼びます。受託製造業者はその部品を使ってパソコンを組み立て、マスキングによる上乗せ金額も含めて完成品を東芝が買い戻します。そして最終的に、東芝が消費者に販売します。この取引自体は「部品の有償支給」と呼ばれ、自動車会社なども導入している一般的なものです。しかし東芝は、この取引の盲点を突きました。受託製造業者にマスキング価格を上乗せした部品を販売した段階で利益を計上していましたが、その価格が調達時の4~8倍に達することもあったのです。東芝はさらに、会計期末の月に必要以上の部品を押し込むことで、一時的に利益をかさ上げしていました。これを東芝は売買を意味する「バイセル取引(Buy-Sell)」と呼んでいました。バイセル取引が激しくなったのは、2008年のリーマンショックがきっかけです。世界中でパソコンの需要が激減したことで、東芝の売り上げと利益が大幅に減少。何らかの対策が求められるようになりました。本来なら、事業の競争力を強化して赤字の脱却を目指すべきです。斬新な新商品の開発やリストラなど、様々な戦略があり得るでしょう。しかし東芝の経営陣は会計数値をごまかすことで、不振を覆い隠そうとしたのです。

 そこで使われるようになったのが「チャレンジ」という言葉でした。一般的には「挑戦」を意味します。しかし東芝社内では、チャレンジは無理な業務目標の強要を意味していました。

 東芝の不正会計を調べた第三者委員会は2015年7月に報告書を公表し、「社長月例」と呼ばれる会議の異様な風景を描写しています。象徴的なのが2012年9月の社長月例です。

 当時の社長、佐々木則夫氏はパソコン事業の責任者に対し、「3日間で120億円の営業利益改善」を求めるなど、法令を順守しては達成が難しいようなチャレンジを強要していました。

 社長の指示は、上意下達で伝わっていきます。カンパニーごとに定められたノルマは部、課、そして個人へと割り振られ、東芝社内の各所で「パワハラ会議」が横行していました。そして、利益の水増しが続けられていったのです。